前シテ:里の女 後シテ:玉鬘内侍(ないし) ワキ:旅の僧 アイ:初瀬寺門前の者
作者:金春禅竹 出典:紫式部作 「源氏物語」22帖・玉鬘
あらすじ
(源氏物語では)
光源氏と夕顔の君との関係は、夕顔の死であっけなく終わってしまいます。しかし、彼女には光源氏のライバル、頭の中将との間に一人の姫君がありました。源氏の乳母の子・惟光が密かな葬儀一切を執り行い、源氏は、夕顔のおつきの女房の右近を、形見として引き取り側近くに置いて使うことにします。幼い姫君の乳母は詳しい事情を知らないままに、夕顔の姫君を預かり育てます。そして夫が太宰の少弐に赴任する際に、四歳の姫君を一緒につれてゆき、姫は筑紫で成人します。その間に、太宰の少弐は三人の息子に後を託し、亡くなってしまいます。姫は気品高く美しく成長されたので、懸想する男が引きもきりません。中に、肥後の国で勢力も盛んな大夫の監(たいふのげん)という武士がいました。恐ろしく無骨で好色な男ですが、姫君の噂を聞きつけ熱心に求婚してきます。脅しまでする始末です。少弐の三人の息子のうち二人までが大夫の監の手引きをする始末です。姫・乳母・長男一行は、大夫の監から逃げるように筑紫を後にし、船に乗り都へと帰り、神仏におすがりしようと長谷寺詣りに出かけます。丁度その時、今は源氏に仕える右近も、姫君を見つけるための願掛けにと長谷寺に詣っていました。椿市(つばいち)の宿で、右近一行と乳母の一行が偶然に出会います。そして、右近の計らいで姫君は源氏の邸に引き取られ、「玉鬘の姫君」と呼ばれるようになります。頭の中将には、まだこのことを知らせていません。
「恋ひわたる 身はそれなれど 玉かづら いかなる筋を 尋ね来つらむ」(光源氏)
(前場)
諸国を旅する僧が初瀬寺をお参りしようと思い立ち、石上、三輪の山を過ぎ、初瀬川のほとりにたどりつきますと、川を小舟に乗った女が遡ってき、女も初瀬寺へ参るところと答えます。女は僧と寺をお参りしたあと、二本(ふたもと)の杉へと案内し「二本の 杉の立所(たちど)を 尋ねずは 古川野辺に 君を見ましや」と古歌を詠じ、右近一行と巡り合った昔話をします。そして僧と初瀬で出会ったのも浅からぬ縁なので、私を弔ってほしいと願います。さらに、自分は玉鬘とほのめかして、姿を消してしまいます。
(後場)
僧は玉鬘の供養を行なっていますと、物狂いの姿の玉鬘が姿を現し、恋の思いにとらわれ、ただならぬ様子。しかし、懺悔することで妄執を払い、ついに成仏をとげます。」
(おわりに)
能では玉鬘の恋の妄執となっていますが、源氏物語にはそのような記述は出てきませんが、多くの男の心を悩ます美しい女性は、それだけで業因重いということでしょうか。ついには、一番嫌がっていた髭黒の大将と結ばれることになりますが、多くの子に恵まれ、結構幸せに暮らしたようです。私には、思いを寄せた男達の気の毒な妄執こそ哀れにも思えますが。
瀬戸内寂聴訳・源氏物語より一部の表現を引用しています
(文:久田要)