能楽師|久田勘鷗|HIDASA KANOH

夕顔(ゆうがお)解説

前シテ:里の女    後シテ:夕顔上    ワキ:旅の僧    ワキツレ:従僧(2~3人)    アイ:所の者
作者:世阿弥(改作)    出典:紫式部作 「源氏物語」4帖・夕顔

夕べと共に花を咲かせ、朝日と共に萎む儚い運命………それが夕顔

あらすじ

(源氏物語では)
源氏の君が「近衛の中将」と呼ばれていたまだ十代のころ、すでにプレイボーイとして、ライバルの「頭の中将」とともに恋愛の道を競っていました。五月雨の一夜、宮中で物忌みのため籠もっている源氏の宿直所(とのいどころ)に頭の中将、左馬の頭、藤式部の丞の三人が集まり、女の品定めが行なわれる、いわゆる「雨夜の品定め」もこの頃である。
様々な打ち明け話……。その中に頭の中将の思い出話として、子までなしたのに、行方をくらましてしまったおとなしい女の話があります。これが後の話しに出る夕顔の君。
源氏の君が六条御息所のもとに通っていた頃、近くの五条の乳母の家へ立ち寄った際、垣根に白い夕顔の咲く隣家に惹かれ、その花の取り持ちで、その家の女を知り通うようになります。扇に載せた夕顔の花の贈り物への返事に「心あてに それかとぞ見る 白露の ひかりそえたる 夕顔の花」。源氏からの返歌「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 花の夕顔」
夕顔の隠れ住む辺りは庶民の町、静かな逢瀬を求めて、ある十五夜の夜、五条に近い荒れ果てた院に女をつれて行き、終日そこでひたすら愛し合い、楽しく過ごしますが、夜分、枕頭に美しい女性が現れ、恨みを述べながら夕顔の君に手をかけ引き起こそうとする夢を見ます。そのことがあったためか、夕顔の君は物の怪にでもとり憑かれたように、あっけなく急死してしまいます。
作者は明らかにしていませんが、この生霊は六条御息所と思われます。そう、葵上にとりついた生霊です。
(前場)
豊後国の僧が、都の名所を訪ね歩き、五条の辺りで女が和歌を吟ずる声を耳にします。 「山の端の 心も知らで 行くは うはの空にて 影や絶えなん」女が現れ、ここが源氏物語に書かれた「何某の院」で、その昔は融大臣が住まわれた「河原の院」と呼ばれていた所で、夕顔の息絶えた所と教えられます。僧は夕顔の娘・玉鬘(たまかづら)の住んだ豊後国との奇縁を喜び、弔いを約束します。女はかつての、源氏の君との思い出や夕顔の儚い運命を語り、姿を消します。僧は所の者に光源氏と夕顔の君のことを聞き、弔いを勧められます。
(後場)
僧が夜通し法華経をあげ弔っていますと、夕顔の霊が昔のままの姿で現れ、弔いを喜び、静かに舞を舞い、成仏を喜び明け方の空の雲に紛れて消えてゆきます。
(おわりに)
源氏物語夕顔の帖で、夕顔の君は登場後早々に亡くなってしまい、あっけない程です。しかしこの物語は後の玉鬘(頭の中将と夕顔の間の姫)十帖へと引き継がれていきます。

瀬戸内寂聴訳・源氏物語より一部の表現を引用しています
(文:久田要)