能楽師|久田勘鷗|HIDASA KANOH

小督(こごう)解説

前・後シテ:源仲国     後ツレ:小督局     後トモ:侍女     前ワキ:勅使     アイ:里人
作者:不詳     出典:「平家物語」小督

あらすじ

(平家物語では)
治承4年(1180年)8月、伊豆において源頼朝の挙兵があった頃と同時期の、宮廷での物語りです。 この年2月、平清盛が強引に、安徳天皇御践祚(皇太子が皇位を継承すること)をおこない、高倉天皇は20歳で上皇(新院)になられます。しかしが、父である後白川法皇が鳥羽の離宮に押し込められた事件や、異腹の兄弟の高倉宮(以仁王)が討たれた事件に加え、東大寺・興福寺の焼失に心を痛め、病気になってゆく様が書かれています。
まだ高倉天皇であった頃、宮中で葵前(あおいのまえ)という若い女性との短い恋がありました。ついに悲恋に終わってしまうのですが、このことで主上(帝)は思いに沈んでいました。お慰めしようと、中宮の御方(清盛の娘徳子・後の建礼門院)から、小督殿(桜町中納言成範の娘、琴の名手)という女房をお側にさしあげられました。この小督には冷泉隆房少将という恋人がいたのですが、天皇のお召しを得たのでは仕方なく、少将は泣く泣く諦めるしかありません。入道相国(清盛)がこのことを聞き、中宮は自分の娘だ、また冷泉少将は娘婿だと、小督に二人の婿をとられては許しておけないと「呼び出して亡きものとせよ」言います。このことを洩れ聞いた小督は、行方をくらませてしまいます。(参考;当時貴族の間では一夫多妻は社会的に許されていました)主上の御嘆きはひととおりではありません。
主上は弾正少弼(しょうひつ)源仲国に命じ、嵯峨の方の片折戸の家にいるという情報のある、小督を探させます。仲国は思案します、小督は琴の名人で、自分も一緒に笛を吹いたことがあります。十五夜にはきっと琴を弾くに違いないし、琴の音を聞き分けられると考え探したところ、遠くに聞こえる「想夫恋」の琴の音をたよりに小督を見つけだします。小督は宮中へ戻されて、ひそかに住まわせられました。そしてその後姫宮が御誕生になりましたが、入道相国はそのことをどこからか漏れ聞いて、小督を捕らえ、尼にして追放してしまいました。こんなことがあって、天皇は病気になっていったとのことです。
(前場)
高倉院の寵愛を受ける小督局は中宮の父である清盛を憚(はばか)って姿を消してしまいます。帝の嘆きは限りありません。そんな折、帝は小督は嵯峨野のほうに居るという話を聞き、弾正大弼仲国を呼び、急ぎ行方を捜させます。情報としては片折戸の家という頼りないものです。今夜は十五夜、きっと小督は琴を弾くだろうし、自分も何度か聞いたことがあるので判るだろうと言いますと、探索のための寮の馬を与えられました。 (後場)
琴の音を頼りに捜し求めるうち、隠れ家を見つけ出しましたが、小督は会おうとしません。粘りに粘って漸く会って帝からの手紙を渡し、直筆の返事を求めます。小督は返事をしたため、名残の酒宴をおこない、やがて仲国は小督に見送られ、喜びいさみ宮中へ帰ってゆきます。

杉本圭三郎全訳注・平家物語(覚一本)及び 新編日本古典文学全集・今昔物語を参考にしています
(文:久田要)