能楽師|久田勘鷗|HIDASA KANOH

頼政(よりまさ)解説

前シテ:尉     後シテ:源三位頼政     ワキ:旅の僧     アイ:里人
作者:世阿弥     出典:「平家物語」宮御最期他

あらすじ

(平家物語では)
平家一門の繁栄が頂点に達する頃、後白川法皇(院)を中心とした朝廷勢力と平家一門との対立が際立ってくるのと並行して、比叡山を代表とする宗教勢力との対立も険しくなってまいります。それに加え、元来、武士の代表であったはずの平家一門が公家化して、やりたい放題。源氏を中心とした武士の不満も募ってきました。打倒平家の企ての最初は、「鹿ヶ谷の密議」での俊寛・藤原成親他でのクーデター計画。これは裏切りによって露見し失敗します。第二弾が本曲、以仁王(もちひとおう)・源三位頼政による挙兵です。
治承4年(1180年)頼政は、後白河天皇の皇子・以仁王(高倉宮)を説得し、平家打倒の令旨を得、これを頼朝、木曽義仲を始め諸国の源氏に伝えました。これを知った清盛の行動は早く、すぐに福原から京へ取って返し、対応を計ります。これに対し、頼政が頼りにした山門(比叡山)は動かず、奈良の衆徒は遠く、まだ到着しません。事態は逼迫し、集合した三井寺を出発。宇治の平等院に籠もり、橋板を三間分取り外して防衛を計ります。しかし川を渡り来る足利又太郎忠綱を先陣とする、平家2万8千の兵と戦い、源三位頼政は自害して果てます。以仁王は奈良に向かって逃げていきますが、途中平家方に見つかり、討ち取られてしまいます。この挙兵は結局失敗に終わりますが、わずか数ヶ月後には、以仁王の令旨を得た、源頼朝、木曽義仲・武田信義らの挙兵が続き、時代は大きく移り変わっていきます。76歳の老武将頼政は、新しい時代の先駆けといえるでしょう。
(前場)
諸国一見の僧が奈良へ向かう途中、観光名所の宇治の里に立ち寄りました。年寄りの里人が来たので、名所旧跡を教えてくださいとお願いします。里人は、色々と名所を教えた後、平等院に案内します。見ると、扇の形に取り残された芝があり、ここは昔源三位頼政が自害した古跡だと述べ、今日が命日で、自分が頼政の幽霊だと打ち明け、消えていきます。
(後場)
古跡を弔っていると、法体に甲冑の老武将が現れ、御経を続けて読んでくれと頼みます。僧は、成仏疑いないので安心なさいと伝えます。頼政の霊は、往時の戦のことや、自害のあり様を述べ、僧に弔いを頼んで、消えて行きました。
(おわりに)
頼政を主人公にした能の曲には、もう一つ「鵺(ぬえ)」があります。

記述にあたっては、杉本圭三郎全訳注・平家物語(覚一本)を参考にしています
(文:久田要)