能楽師|久田勘鷗|HIDASA KANOH

夜討曽我(ようちそが)解説

前・後シテ:曽我五郎時致      ツレ(前):曽我十郎祐成・ 団三郎・ 鬼王      後ツレ:古屋五郎・ 御所五郎丸・ 宿直の侍(2人)
アイ:大藤内狩場の者
作者:宮増       出典:「曽我物語」巻9 鬼王道三郎曽我帰事、五郎召捕事

あらすじ

(曽我物語では)
まず、曽我兄弟の仇討ちの概要をご説明します。鎌倉幕府が出来て間もない頃の話です。伊豆国の土地の支配権争いで、工藤祐経(くどうすけつね)と叔父の伊東祐親(すけちか)が争っていました。そして、工藤祐経が放った刺客の矢に当たり死んだのは、伊東祐親の嫡男・河津祐泰(かわづすけやす)でした。河津祐泰には、妻満江御前との間に何人かの男の子があり、兄を一萬丸、弟を箱王丸といいます。その後、満江御前が相模国の曽我祐信と再婚したことから、兄弟は、兄を曽我十郎祐成(すけなり)、弟を曽我五郎時致(ときむね)と呼ぶようになります。工藤祐経は頼朝の御家人としての実力者です。曽我兄弟は工藤祐経を親の敵と付け狙い、源頼朝主催・富士裾野での盛大な巻狩りでチャンスがめぐってまいります。
曽我兄弟は富士裾野での巻狩りに加わっています。供の鬼王・道三郎を呼び出し、故郷の母に形見を届けるように命じますが、中々聞き入れません。しかし、再度の命令で二人は曽我へと帰っていきます。兄弟は、いよいよ工藤祐経を討つため、祐経の屋形へ向かいます。守りの堅い屋形では、再三咎められるも何とか通過します。用心して祐経の屋形も移っていますが、祐経を見つけ、仇討ちの本懐を遂げます。しかし、そこはいわば敵陣内です。祐経身内の者が襲いかかってまいります。十郎は10人まで討ち合いますが、新田四郎忠綱に討たれてしまいます。五郎は、堀藤次という武者を追いかけているうち、頼朝の御侍所に入ってしまい、そこで、薄衣を被り女装した御所五郎丸の手にかかり、生け捕られてしまいます。
(前場)
十郎・五郎の兄弟は、富士の巻狩りに参加しています。そして、今夜こそ敵の工藤祐経を討とうと話合います。そして、供の団三郎・鬼王兄弟に、故郷の母に形見を届けるよう命じますが、納得しません。なおも命じますと、二人は刺し違えようとします。十郎は、それでは誰が事の次第を母に報告するのかと、説き伏せると、団三郎・鬼王は泣く泣く了解し、形見の品をもって故郷へ向かいます。
(後場)
その夜、討ち入りが行なわれ、逃れてきた者がその模様を告げ、去っていきます。仇討ちは首尾よく本懐をとげますが、多くの軍兵たちに取り囲まれます。兄十郎は既に討たれたとみえ、返事がありません。五郎は古屋五郎と討ちあい、これを倒しますが、薄衣で女装した御所五郎丸に油断したところを捕り押さえられ、頼朝の御前に連れていかれます。
(おわりに)
「曽我兄弟の仇討ち」は瞽女(ごぜ)の語りで伝えられ、その後、読み物語として広められたそうです。事件の真相には意見が分かれますが、単純な仇討ち事件ではなく、仇討ちに事寄せた、鎌倉幕府の屋台骨を揺るがすような、政治上の思惑の絡んだ事件だった、と考える研究者が多い様です。

市古貞次・大島建彦校注 日本古典文学大系「曽我物語」岩波書店刊 他を参考にしています
(文:久田要)